上田キク先生コミックス発売おめでとう記念作品




「しかこちゃんがみてる」 プロローグ

書いた人:うめもも みがさ




「うん、大分良い感じになってきたね」
日が暮れてきた河原。僕ら第二文芸部を前にして殿谷は厳かに言った。
それにしてもなんでこいつは女子の制服着てるんだろう。
誰も突っ込まないから僕も聞けなかったけれど。
いたって真面目な口調で喋りだすので違和感が物凄い。
千絵姉だけはなんか言いたそう、というか殴りたそうにしているけどね。
せめて女装するならカツラでも被れば良いのに。
「僕はこのままでも十分美しいから不要だよ」
僕の目を見つめながらそんな事をのたまう変態。
あれ、とうか僕今口に出してなかったよな?
・・・これ以上考えるのはよそう、うん。

「これならば来月の学園祭、問題ないと思う」
「やったぁ!殿谷クンのお墨付き貰っちゃったっ!」
「やったね、きらちゃん!」
椎野と樫原も嬉しそうだ。本当にここ数週間、僕たちは頑張ったのだから。
「はいはい、どうもね」
千絵姉だけは嬉しそうには見えないけど。目も合わせないし。
まぁ演奏が嫌なんじゃ無くて、殿谷が嫌なんだろうけどね。
「とりあえず、一度度胸をつけるために人前で演奏してみようか?」
「人前?ここも十分人前だと思うけど?」
「はっはっは、違うぞ石動。ここは外だが、基本的にはオーディエンスは居ない。露出プレイと青カンぐらい違う」
「死ね変態!」
「ねぇねぇきらちゃん、露出プレイと青カンってなあに?」
「なんだろうね、鹿くんわかる?」
「僕に説明しろと・・・。本当にわからないのか?」
「「うん!(はい)」」
「・・・さて、どうしたものか」
「はいはい、後で私がじっくり教えてあげるからそんな話題はやめなさい!」
「千絵姉がどう教えるか興味ある・・・イテッ!殴ることないじゃないか!」
「話を進めていいかい?」
「あんたはあんたでなんでそうマイペースなのよ!」
千絵姉もなんかすっかり逞しくなったなぁ。
ここ最近はおしとやかだったような気も・・・いや、昔からああだったな。
口調は女の子らしいけれど。

「一度、衣装を着た状態で演奏するのはどうだろうか?」
「衣装ねぇ、もちろんこの前話し合ったアレの事よね?」
「この前・・・?僕そんな記憶無いんだけど」
「あはは、鹿クンが居ない時にちょっとねっ!」
「前島さんを後で驚かせようと思いまして」
「・・・まぁ良いけど。で、その衣装ってのはどんななんだ?もちろん僕のはカッコイイんだよね?」
「「「・・・」」」
「なぜだまる」
「大丈夫、カッコイイと思うよ」
「お前の言葉は端から信頼してなから大丈夫だ」
「君はなかなか酷いことを言うね」
「根が正直だからな」
「正直者は好きだよ」
「お前に好かれてもなぁ・・・」
「・・・(ドキドキ)」
「・・・樫原、ボーイズラブ的展開は無いから安心してくれ」
「そ、そんな!じゃぁ私は何を楽しみに生きていけば良いんですか!」
「そうだよ鹿クンッ!女の子の夢を取りあげるなんて酷いっ!」
「そんな夢捨てろ、今すぐ!」

「・・・で、衣装どうするんだ?なんかの真似するの?ラモーンズ?まさかピストルズじゃないよな?」
「それでは芸が無い。そもそも女の子達にそんな格好させてもね」
「鹿之助、あんたそんな趣味が・・・」
「無いから!」
「あのねっ、可愛い衣装を美雪ちゃんと舞ちゃんが作ってくれるんだってっ!」
「キリスト教っぽい敬虔なデザインも取り入れるって言ってましたね」
「あの子たちに任せておけばその辺は大丈夫でしょ、なんだかんだでセンスは良いんだし」
「ふ〜ん、そっか・・・」
まてよ、可愛い・・・?
とても嫌な予感がした。走馬灯の様に頭にイメージが翻える。僕の直感は伊達では無いのだ。
具体的に言うと過去の学園祭、女装喫茶。
恩(略)の顔が出る前に思考を戻す。
恐る恐る聞いてみた。
「もしかしなくても・・・」
「鹿之助も女装よ」
瞬殺でした。
「この衣装を見てもっと早く察して欲しかったなぁ」
「わかるか!お前は二日に一回は女装じゃないか!」
「失敬な。三日に一回だよ」
「あまりかわらないって・・・」
「鹿クン、女装似合いそうだもんねっ、早く見てみたいっ!」
「隠してるなんて、前島さんは酷いです。もっと早くに教えて下さればいいのに・・・」
「教えてたらどうなったんだ?」
「もちろん、私の服をお貸ししてましたわ」
「勘弁してくれよ・・・」

「でだ、衣装はまだ完成してないので、とりあえず制服でやってもらう」
「制服ってのはつまり・・・」
「ここに僕の予備がある。これを着ると良い」
「・・・もう突っ込んでも無駄な気がしてきたな」
「久々ね、鹿之助の女装姿」
「千絵姉、止めてくれよ!千絵姉が居てなんでこんな展開に!あの惨劇を知ってるからこそあり得ないだろうって信じてたのに」
「だって・・・」
「だって?」
「あんな面白い事、黙ってられないじゃない!」
久々に見た、彼女のやんちゃな笑顔。そうだった、彼女は元「ガキ大将」でした・・・。丸くなったと思ってたのは思い違いだったか・・・。
最後の砦を破られた僕にはもはや抵抗する術は無かった。彼女達に服を剥ぎ取られ・・・っておい!
「何で俺脱がされてるんだ!?」
「「いいからいいから」」
「良くないよ!100歩譲って着替えざるを得ないとしても、自分でやるって!」
「あら鹿之助、あんたこれつけられるの?」
そういって千絵姉が出したのは・・・あれです。あの、ふたつの山を覆う布。なんていうか、女性専用の・・・。
「ブラです。ちなみに私の私物です」
「お前のかよ!なんでそんなに堂々としてるんだ、少しは恥ずかしがってくれよ!」
「だって、ここには女性しか居ませんし・・・ねぇきらちゃん?」
「そうだよ、女の子しか居ないよっ!」
「まてまて落ち着け、こう見えて僕狼ですから!健全な男子ですから!しかもそこにもう一人居るだろ!」
「あいつはいいのよ、変態だから。そういう対象じゃないし」
「僕の好みは僕より美しい人だからね、残念ながら君たちでは役者不足だ」
「・・・対象ではないんだけど、でも殴りたくはなるわね」
「・・・大丈夫、皆魅力的だよ、はぁ・・・」
僕は諦めて彼女達に身を任せた。辛うじてトランクスだけは死守したけど、何か大事な物を失ったような気がした午後の河原。
そう言えばここ外だったよな・・・。死にたい。

女装した(なんとカツラまで用意されていた)僕はただ今絶賛化粧中です。純粋な少年だった頃、僕はこんな日が来るなんて思っていませんでした。
ごめんなさい母さん、僕は汚されてしまいました。よりにもよって血の繋がって無い姉を中心に。
「うふふ、今日はお赤飯ね♪」
・・・駄目だ、幻の母さんまでこんなだよ。味方は居ないのか。祐子、そうだ祐子は?
「・・・私ね、お姉ちゃんでも、良いよ」
・・・家出、しようかな。

ファンデーション(で、あってるのか?)を塗ってる千絵姉、まつげを弄ってる樫原(マスカラとか言ったっけ)、口紅を塗っている椎野(こいつ、こんなの持ってたんだな)、嬉しそうに髪の毛を結っている変態(気持ち悪いほど手際が良い)。ものの10分ちょっとで完成した、らしい。
「はぁ〜・・・」思わずため息がもれる。これで開放されるのかな。
・・・。
・・・。
・・・。
なぜか皆固まっている。様子がおかしい。
なんだ、何があったんだ?電池切れ?
特に千絵姉がヤバイ。こんな目をした千絵姉見たのは、昔近所のスーパーで戦隊ヒーローに握手して貰った時以来。
つまりは・・・自分で言っててわからん。なんなんだろうね。
「おい、みんな・・・なんか言ってくれよ」
「・・・はぁ」
「・・・はふぅ」
「・・・わぁ」
「まぁ僕には負けるけど、二番目ぐらいには良いじゃないかな」
殿谷は置いておくとしても、本当になんだこの反応は。
そんなに気持ち悪いのだろうか。それはそれで悲しいのだが、こんな格好をしなくなるのなら100倍マシだ。
「これでわかったろう、いいからこんな格好やめ」
「「「綺麗!!!」」」
うお!?
タガが外れたように興奮しだす三人。しかも椎野には抱きつかれてしまった。か、感触が・・・。
「鹿之助、あなた腕を上げたわね、悔しいけど私より綺麗よ」
なんの腕だ!
「鹿くん可愛いっ!!本当に可愛いっ!!!」
とりあえず放して下さい。小さい(失礼)とは言え刺激が強いのです。
僕もこんな格好してますがいろいろ付いているのです。
「・・・お姉さま」
待て待て待て!樫原さんは何か変な事言い出しましたよ!
「お姉さま・・・アリね」
「鹿クンだから、鹿子ちゃんだねっ。鹿子お姉さまだっ!」
一瞬で同調し始める彼女達。うん、仲良いですね。仲良いのは分かったのでその変な名称は辞めていただけると助かります。
「この様子なら、きっと知り合いにあってもわからないわね。私が言うからには確実よ」
「学校でこっそりこの格好しても大丈夫ってことだねっ!」
「むしろ転校生として扱うのはどうでしょう?美雪さんや舞さんから下級生に広めて貰えれば浸透するかもしれません」
「そうね、同級生だって受験で滅多に学校来なくなってるわけだし、情報を統制すればイケルかも・・・」
「第二文芸部に期待の美人転校生入部っ!これは話題になるかもしれないよっ!」
「鹿子お姉さま、学園祭を蹂躙する。うふふ、素敵ですわ」
なんか彼女達は盛り上ってしまった。正直入る隙間が無い。入ろうとも思わないけど。というか正気か?内容が明らかにおかしいだろ。
村上をはじめ、何人が僕の女装姿目撃したと・・・。悲しい事に結構話題だったから、下級生と言えど知ってる人は多いし・・・。
「料理人の腕だね」
そういえばこいつも居たっけか。冷静に考えると女装男子が二人。通報されないだろうか。
「彼女達三人は、密かに化粧が上手い。僕から見てもなかなかの手際だったよ」
さいですか。
「思うに前回君が化粧をした時は、遊び半分だったんでは無いかな。今回彼女達は本気だった。その差が出てるんだと思う」
そこまで言われると気になるなぁ。そんなに良いのか?だれか鏡くれ。
「まぁ、彼女達は自分達に施すのは苦手なようだがね。尤も、素材が残念だからかも知れな」
横からすごい勢いでスティックが飛んできた。殿谷の眼鏡に刺さってるけど、目は大丈夫か?(汗)
「鹿之助、はい、鏡!」
千絵姉が何事も無かったかのように手鏡をくれた。僕もそれに乗っかっておこう。命は惜しいし。


あれ、貰ったの手鏡だよね?何か知らない人が映ってますよ?これ液晶TV?


え?あれ?


えぇ!?



「嘘ー!!!」
鏡の中の美女が叫んでいる。どうやらこれが僕らしい。
なんですかこの出来栄えは!?いつのまに整形手術したんだ僕はー!!
「うふふ、樫原財閥の総力を結集した化粧品とメイク道具を使ったんですよ」
「紗理奈ちゃん家って凄いんだよっ、肌の色に合わせたオーダーメイドの化粧品一式、(ピー)万円だってっ!」
「私が欲しい位よ、まったく」
「でも、素材が良いからここまで化けたんだと思いますよ、お姉さま・・・ぽっ」
樫原はさっきから様子がおかしい。熱射病だろうか。それともこれは夢なのだろうか。
「ねぇねぇ鹿子お姉さま、ごきげんようって言ってっ!言ってっ!!」
椎野はテンションが高すぎる。悪いものでも食ったのだろうか。それともこれは夢なのだろうか。
「・・・ねぇ、鹿之・・・ううん、鹿子ちゃん。ちょっとギュッってしていいかしら。ギューッと」
千絵姉は目が怖すぎる。貞操の危機すら感じるのは気のせいだろうか。それともこれは夢なのだろうか。
「これも現実さ。さて、そろそろメインの生演奏をしに行こうじゃないか。時間は待ってくれないよ」
だから僕の心を読むな変態。

その後、僕らは殿谷の親父が経営するデパートの前でバンド演奏を行った。
しかも皆覆面を被ってるのに、なぜだか僕だけ素顔(女装Ver.)でやらされた。何故?
凄く視線が痛いのですが・・・。
うちの学校の制服も何人か見かけたし。知らないぞ。
「いやぁ、大成功だったね」
「楽しかったぁ!」
「心臓止まるかと思ったわよ」
「何かイケナイ感覚が目覚めてしまいそうでしたわ、うふふ」
皆はとりあえず解放感ではしゃいでる。確かに度胸は付きました。
でも僕には別の物も付いちゃったんですが・・・。

「あ、あの・・・、お名前教えて下さい!」
「今度何時ライブやるんですか、絶対見に行きます!」
「ねぇねぇ彼女、イカスじゃん!俺らとちょっと遊びに行かねぇ?」
「お姉さま、お茶でもご一緒に・・・」
「あんた可愛いのぉ、息子の嫁にどうだい?」

あっと言う間に囲まれてます。誰か助けて下さい。

「・・・放置プレイも良いわね」
「・・・鹿子お姉さま、後で助けてあげるからねっ」
「・・・これが放置プレイという物なのですね。すごくドキドキします」
「ま、僕の美しさには負けるけどね」

訂正、誰も助けなくて良いので僕をここから連れ出して下さい。

「・・・貴女は、いつぞやの学園祭の君!ようやく会えた!!」
うわぁ、ヤツまで来たー!

必死の爆走により、なんとか恩(略)から貞操の危機は回避したのだけれど、自宅の前まで来て僕の服は彼女達が持ってる事に気づく。
この後どうしたかは想像にお任せします。

母さん、そのビデオは処分させてくれ。


続く?



あとがき
キク先生のとのやんは衝撃ですよね(笑)。リスペクトしてこんなの書いてみました。
物語の下地はタイトルから連想した通りです。そんな感じの話になります。
マリア様もまりや様も見てないけどしかこちゃんは見てます(謎)
でも多分この物語の主役はとのやん。あと恩(略)



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